アクティブシニアのための心臓病読本
第 7 章 が ん
4 がんと血栓症 外科治療はこれまでがん治療の主役でし た。今でも第一に考えるべきがんの治療法 です。がんを手術で切除しますと一定期間 はベッドで臥床安静を強いられますが、こ の間に血液の流れがうっ滞して深部静脈に 血栓(血液の塊)が形成されやすくなるこ とがわかっています。したがってこれを予 防するために弾性ストッキングを利用しま
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臓
病
の
意
外
な
関係
図5
弾性ストッキング
す 図5 。もともとがんの方は、血液が凝固しやすい傾向にあります。 がんからは血液の凝固を促す物質が分泌されているためと考えられま す。このがん関連血栓症は、血栓性静脈炎や肺血栓塞栓症(肺梗塞) をおこすために非常に厄介です。これを治療するお薬として抗凝固薬 が使われています。抗凝固薬は「血液サラサラのお薬」ですから出血 を起こしやすい状態にします。しかしがんを患われている方はもとも とがんの病巣では出血しやすい状態になっていたり、がんを手術で取 り除いた状態にあります。がんの患者さんにどの抗凝固薬をどの程度 の用量でどれくらいの期間使えばよいのかについては、一概にはいえ ません。今後、腫瘍や血液、心臓などの専門医が同じ席で議論を重ね て検討されていくことと思われます。循環器腫瘍学はまだ誕生間もな い新しい学際領域ですから、今後の発展が期待されます。 がんの入院患者さんの2割に深部静脈に血栓ができるともいわれ、 今後もがん関連の血栓症は増えると考えられます。がんは増殖や転移 をおこす上で血栓をつくっているともいえます。静脈血栓を起こしや すいがんとして、すい臓がん、肝がん、卵巣がん、肺がん、乳がん、 大腸がんなどが知られています。がんに関連する静脈血栓をふせぐに
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