アクティブシニアのための心臓病読本
心臓はがんになりにくい? そもそも心臓は他の臓器に比べてがんの発生が非常に少ない臓器で す。がんと心臓病は縁が薄いとされてきたゆえんです。また心臓病とが んは、学問の領域としてもこれまで深い交わりはありませんでした。私 が学生の頃は、心臓病に興味のある学生はがんを苦手にしており、が んの領域に進みたいという学生は心臓病にあまり興味を示しませんで した。お互いに違う領域だという認識が学生ながらにあったのかも知 れません。それはさておいて、心臓にがんが少ないことにはいろいろな 学説があります。第一にヒトの心臓は胎生期に中胚葉という部分から 出来ます。生後も外界と接することなく自身の血液のみと接していま す。外界の有害な刺激を受けやすい外胚葉(皮膚など)や内胚葉(消化 器や呼吸器)に由来する臓器にがんが多い反面、心臓が中胚葉に由来 して外部との接触が少ないことは、心臓にがんが少ないひとつの理由と いえます。また第二に心臓は(最近は異論も出ていますが)細胞が分裂 しない最終臓器ですから、常に細胞分裂を繰り返すなかで突然遺伝子 が変異してがんが発生する他の臓器に比べるとがんが少ないというの は理にかなった説明です トリビア ❶ 。第三に心臓は体表温度より高 い深部体温にある臓器ですから、高温に弱いがん細胞は心臓に住みに くいとする説です トリビア ❷ 。最後にヒトの心房はNa利尿ホルモン というホルモンを分泌しますが、このホルモンががんを抑制しているの ではないかという仮説です。このホルモンは尿を多く出して、血管を拡 張して、心臓の負荷を下げたり、自律神経を安定化したりするいろいろ と役に立つ働きがあります(第2章参照)。これらは全て心臓や血管を 守ってくれるはたらきです。Na利尿ホルモンは心臓や血管、腎臓の守り 神であるだけでなく、がんに対する抑制作用もあるという仮説です。こ れらにより心臓にはがんが少ないことが経験的にわかっていました。 1
94
Made with FlippingBook Digital Publishing Software