アクティブシニアのための心臓病読本

第 4 章 高 齢

トリビア ❹

ヒトの心拍数と寿命

第2章のトリビアでご紹介した「ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学」(本川 達雄 著, 中公新書)では動物は種を問わず、心拍数一定の法則があるらしい、という ことでした。これをヒトに当てはめると心拍数の比較的多いヒトは短命、逆に心拍数 の少ないヒトは長寿ということになりそうです。確かにそういう場合もあるようです が、ヒトの場合は生活スタイルや社会環境などが広くそのヒトの心拍数に影響してい るようです。心拍数が多いヒトは喫煙者や肥満者にも多く、心拍数より生活習慣が寿 命に影響している場合も少なくありません。逆に安静時の心拍数を下げる意味で適 度な有酸素運動をしたり、ヨガやハーブなどで自律神経を整えれば、心拍数の低下 よりそれらの健康法が寿命にいい影響をおよぼす可能性もありますので、ヒトの心 拍数と寿命の直接の関係を解明するのは容易ではありません。 ヒトの腸管内には無数の細菌が生息しています。それらは種別にお花畑のように 群生していますから腸管内の細菌叢はフローラとも呼ばれます。これまでも善玉菌 (食べ物の消化吸収を促して便通を良くする細菌群)、悪玉菌(細菌毒素やガスを 発生させる細菌群)、日和見菌(健康な状態ではおとなしく抵抗力がなくなると悪い はたらきをする細菌群)と大きく三つに分類されてきました。しかし最近では、次世代 シークエンシング技術の進歩によってヒトの腸内フローラが(これまで分離培養が困 難であった細菌も含めて)網羅的にゲノム解析できるようになりました。またそれによ り腸内フローラが肥満や糖尿病などの生活習慣病や喘息などのアレルギー疾患に 深く関与していることが次第に明らかになりつつあります。さらに心不全や動脈硬化 の進展にも腸内フローラが一定の役割を果たすという研究が進められています。あ る種の腸内フローラ由来の代謝産物が動脈硬化を促進したり、炎症性サイトカイン を誘導すると心臓の収縮力を弱めたり、動脈硬化巣の被膜を不安定にさせます。そう すると心不全が悪化したり、心筋梗塞の発症に結びつくことが想定されます。また心 不全の患者さんでは腸の粘膜にもむくみがあると考えられています。それにより栄養 の吸収が悪くなったり、腸内細菌に由来する炎症を起こす物質が腸の粘膜を透過し トリビア ❺ 腸内フローラと病気

者の

やすくなり、心不全を進行させることが想定されます。 心臓病をこのような腸内フローラから予防していくの は理にかなっているといえますし、医食同源という言葉 が新たな響きを持って聞こえてきそうです。 第1章で述べた食生活の工夫は腸内フローラの観点 からも大切な習慣といえるでしょう。

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