アクティブシニアのための心臓病読本

トリビア ❶

高齢者の心筋梗塞

心臓病の治療は従来から救命に重点が置かれていましたが、心臓病患者さんの 高齢化や心不全の難治化により質の高い緩和ケアが求められる時代となりました。 患者さんや家族の心身の苦痛を最大限和らげて、社会心理的な問題に寄り添い、患 者さんの人生を思いやれる医療は緩和医療とよばれます。患者さんの意思決定能力 が低くなっていく場合もありますから、リビングウィル(元気なうちに自分の気持ちを 打ち明けること)と呼ばれる意思表示を行い、普段から繰り返し家族や関係者と「人 生会議」を行うことは大切です。最初は抑うつや不安から「人生会議」に参加されな い患者さんも話の成り行きで今後の心不全の治療に話がおよんで、自身の希望を 打ち明けたら心の負担が取れたという例もあります。病状や治療の経過で患者さん の気持ちも変わることがあります。「人生会議」は繰り返し行いましょう。アドバンスト ケアプラニング(ACP)は医師、看護師、薬剤師、理学療法士や作業療法士、カウンセ ラー、管理栄養士、社会福祉士などが協働で患者さんと家族の希望を確認しながら 患者さんが自分らしい最後を迎えるための意思決定を支援するためのものです。 トリビア ❸ 心不全の緩和ケア 心不全とは心臓のポンプ作用が弱くなった状態です。心臓は収縮と拡張を繰り返 すことでポンプとして機能していますので、心不全では収縮が弱いタイプと拡張が上 手くいかないタイプの二通りがあります。収縮が弱いタイプの心不全は狭心症や心 筋梗塞を経験された方に多く、拡張が上手くいかないタイプの心不全は高血圧など 生活習慣病の方に多いとされています。 高齢者の心筋梗塞にはいくつかの特徴がみられます。第一に高齢者では心筋梗 塞に特徴的な胸部症状が乏しいことです。症状が非典型的で胸痛がない場合もある ので診断や治療開始の遅れにつながります。胸痛のない無痛性心筋梗塞は糖尿病 の患者さんに多く見られます。第二に慢性疾患や認知症などの併存疾患、多臓器の 機能が低下していることがあげられ、これらが心筋梗塞の治療にも影響することが あります。第三に高齢者の心筋梗塞では相対的に女性患者さんの比率が高くなりま す。女性の体内のホルモン環境が加齢とともに変わることが影響していると考えられ ます。心筋梗塞の非典型的な症状として、胸痛ではなく背中や首、肩、あご、歯の痛み を訴えられることもあり、関連痛とよばれています。 トリビア❷ ふたつのタイプの心不全

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